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アトリエ村ぐらしについて

 

 

 ここの住人が東京から長野県北佐久郡軽井沢町に移住したのは、2023年6月のことです。住人の名前をここではカマカマ氏としておきましょう。

 カマカマ氏は軽井沢の西のはずれ、追分の「笑い坂」地区のこの場所に昔からあった山小屋をリフォームして、第二の人生をスタートさせました。年齢は不詳といいたいところですが60代前半です。改装した家は平屋ですが、浅間山にむかって左側をいわゆる住まいとしてプライベート空間とし、道に面した右側をお店としても使えるパブリックスペースを意識して改装し、このスペースの名前を、「アトリエ 村ぐらし」と命名しました。

​  軽井沢町と保健所から営業許可をいただいて2024年の7月1日からコーヒー焙煎と、テイクアウトを中心とした飲み物のご提供を始めています。

 

 その名前の由来についてお話します。

 もともとはカマカマ氏が、立原道造という軽井沢にゆかりのある詩人が追分の地で詠んだ詩「村ぐらし」から拝借したものですが、ちょっと気取ってMURAGLACISと、いかにもフランス語風のアルファベット表記になっています。「ムラ、グラッシー」とでも発音していただければ、カマカマ氏にとってしめしめです。グラッシーには緩やかな坂道の意味もありますので、浅間のすそ野が緩やかに伸びている坂の途中にあるこの場所にはふさわしいのかもしれません。では、ムラとは…。

 日本語ではムラグラシのムラには「村」の字を充てて「村ぐらし」と書いていますが、このムラという言葉には実は4つの意味が込められています。

 ちょっと長くなりますが、よろしければお付き合いください。

 

 

「村」ぐらし

 まずはCountry Life、文字通り田舎暮らしをイメージした「村」という文字。軽井沢のみならず昭和の日本を代表する小説家堀辰雄は、代表作のひとつ「菜穂子」のなかで、追分の地をO村と呼びました(ちなみに軽井沢はK村です)。今でこそ軽井沢は保養地、避暑地としてあたりまえになっていますが、堀辰雄がこの地を描いた当時は、村とはいえこの場所は日本一のハイカラで日本中にどこにもない、新しい場所だったわけです。

 コロナ禍を経験した世界は、大きく価値観を変えざるをえませんでした。リモートワークが当たり前となり、都会と田舎の二重生活も珍しいことではなくなりました。インターネット通販の普及が新たな生活様式をバックアップしました。以前は憧れの域をでなかった都会的な利便性と田園の自然に満ちた生活のいいとこどりが手軽にできるようになりました。そうはいっても、インフラ整備には時間がかかります。しかし軽井沢は、コロナが始まるはるか前から森の中に都会的な環境が整備されていました。まさにポストコロナにおける新しい田園生活のプロトタイプにふさわしい場所です。

 この場所は世界中のどこにもなかった新しい生活の発祥の地になりえる場所です。そういう、都会暮らしとは一線画したコロナ禍後のあたらしいカントリーライフをご提案したいという想いが「村」の一文字にはこめられています。

 

「群」ぐらし

 ムラには、「群」という文字も充てられます。いわゆる群れ、人が集まる場所という意味です。人には、家でもなければ、職場でもない第三の場所、いわゆるサードプレイスが必要です。アメリカの社会学者レイ・オルデンバーグはサードプレイスとはコミュニティーの核となるような「とびきり居心地のよい場所」でなければならないと説きました。人が自然と、その居心地の良さをもとめてあつまってくる場所を目指したい、そういう想いが「群」には込められています。

 ところで居心地の良い場所とはどんな場所でしょうか。人間の五感に訴えるような場所でなければなりません。視覚や聴覚、嗅覚、味覚、触覚。

 嗅覚や味覚、触覚に訴える丁度良い飲料があります。珈琲の香りや味は心をおちつかせてくれます。ご存じですか、世界中でもっとも輸出入の多い産物は石油ですが、その次に流通しているのは実は珈琲なのです。世界各国の人がおいしい飲料を求めて珈琲を売り買いしているのです。でも、珈琲専門店を目指しているわけではありませんから、珈琲はわき役です。あくまで主人公はここに集まる人々です。カマカマ氏は若い頃から集めた美術展の図録や、写真集などをおくことにしました。珈琲をのみながらアートに触れ、なにげない会話を楽しんでいただく。窓を広めにとり、木漏れ日や風のそよぎ、鳥たちの鳴き声、四季を通じて咲き乱れる花々、そういったものたちが視界やBGMとして心の隙間に忍び込んでくる、そんな場所づくりを目指します。

 

「叢」ぐらし

 つづいてのムラは「叢」の文字。ちょっと難しい字ですが、クサムラ(草むら)とも読みます。草むらにはどんな植物が生えているでしょうか。たとえば、ラベンダーだけだったら草むらとは言いませんね。その場合はラベンダー畑です。つまり、一種類の草花や、すぐに数えられる種類ではなく、様々な種類の花々、植物が生えている状態を叢と呼びます。最近の言葉でいえば、ダイバーシティ、多様性とでも呼べばよいのでしょうか。軽井沢に移り住んでからわずか半年の間にも様々な人と出会いました。独特の世界観を描くアーティストの方や、人の心を映し出す写真家のかた、重機を頼らずに巨木を伐採する木こりの方にはその匠の技を見せていただきました。軽井沢をこよなく愛し、軽井沢をもっともっと情報の発信源としたいと様々なイベント実現に取り組んでいるパワフルなインキュベーターの方、自然と人間との共存をめざして鹿猟、猪猟を続けている若い猟師の皆さん、東京でサラリーマン生活をしている間は出会うこともかなわなかった魅力ある多くの方々が、ここには暮らしています。それだけでなく、生まれたときからこの佐久地方で暮らしている方や、夏の間だけ別荘に来られる方、二重生活をされている方、旅の途中にふらりと立ち寄られた旅人の方。そういう様々な境遇の、様々なアイデアを持っておられるかたが、もっと日ごろから触れ合える場所がないだろうか。みんなが社交的であるわけではありません。人と意見が合わないことはたくさんあります。でも、時にはぶつかり合いながらも、いつのまにかいろんな人が集まってきて、新しいものが生まれる場所。新しいものは、人の想いのるつぼから生まれるのだとおもいます。叢こそが今求められています。

 

「斑」ぐらし

 最後のムラは「斑」という文字です。まだらとも読みますが、今までの常識ではあまり響きの良い言葉ではありませんでした。あいつはムラっけがあるからなぁ、とか、今日パン焼いてみたんだけど、ちょっと焼きムラができでゃってさぁ、などというときにこの文字があてられます。本来は同じものでなければいけないときに、状態がバラバラであったり均一でないときにムラという言葉が使われるようです。

 日本のホワイトカラーの生産性が先進国の中で低いことが時々問題になります。生産性とは仕事の効率化を図る指標で、利益をあげるためにどれだけ経営資源を少なくするか、ということです。100円稼ぐために1時間かかったひとと、2時間かかったひとでは2倍生産性がちがいます。経営資源とは時間のほかに、人、物、金、そのほか情報などがあげられます。

 サラリーマン時代、仕事をするうえで、3つのムをなくすことが生産性の向上につながると教えられてきました。3つのムとは「ムリ、ムラ、ムダ」のことです。ここでもムラは悪者扱いですね。しかし、自然と共生しようとするとき、むしろムラに対して柔軟に対応する、いやもっと積極的にムラを受け入れる姿勢も重要なのではないかと考えるようになりました。

例えば、空気の動きのことを風とよびます。風は絶えず一定の速度で吹いているわけではありません。そよ風もあれば、台風のような激しい旋風もあります。風が吹けば天気も変わります。どんなに天気予報の精度が高まっても、正確に予報をすることはできません。自然は本来まだらでばらばらなものです。でもだからこそ自然は豊でありえるのです。たとえば日本には四季がありますが、これも年によって、暑い年、寒い年、梅雨が長かったり、台風が多かったり。しかしそのバラバラさが自然の豊かさを保ってくれています。

 しかし人間はその自然を制しようと躍起になってきました。そのために多くの資源を使いつづけました。まっすぐな道をつくるためにうねうねした山を崩し、くねくねした川の流れをコンクリートで埋めてしまいました。資源が自然の恵みであることを、忘れてしまったというより、考えないようにしてきたのです。とくに資本主義経済は、成長を求めるあまりに、ひたすら資源を使い続けています。もちろん安直に脱資本主義に走るわけにはいきません。脱成長もおなじことです。ただ、自然というほんらいマダラな世界でいきるなかで、人間だけが無理を強いて均一性を求めることはできません。夏には夏の良さ、冬には冬のよさ。積極的にムラを生活に取り入れることが、これからは求められるのではないでしょうか。

 

 と、ほんのちょっとだけ、ムラぐらしのムラを説明しようとしていたはずなのに、ずいぶんとかかってしまいました。これこそが、ムラですね。でもムダであったとはおもいたくありません。もしアトリエ村ぐらしがどういうことを目指しているのか、お分かりいただけたのであれば、この長い文章も無駄ではなかったと思いたいです。

 

 この村ぐらしのコンセプト 4つのムラ「村」「群」「叢」「斑」の言葉の意味をお分かりいただけた方はもうここの住人であるカマカマ氏の友人です。ぜひ、村ぐらしのドアをたたいてみてください。ぜひともお近づきのしるしに美味しい珈琲をお淹れします。

どうぞ、ごゆっくりおくつろぎください。

 「そのかわり、まだ焙煎もエスプレッソマシンもまだまだ勉強中ですので、多少味や香りにムラがあるかもしれません。その際は、どうか寛容なお心でご勘弁を…。」

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